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ベテランになりつつある皮膚科医がみた世界。世の皮膚病の患者さんの役に立てれば幸です。08年5月より多忙のためしばらく相談に対する回答をお休みします。


by SkinDr
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報道の無責任、再び

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通常の昼間の医療体制でも通常の病院では救命不能な患者を真夜中にわずか6時間で60km離れた病院まで約束を取り付けて送り届け、胎児だけでも救命した病院の努力は評価されないのだろうか?

今回の報道はあまりにも偏向している。

受け入れ「拒否」ではない。受け入れ「不能」なのだ。
受け入れても助けられない病院に搬送しても意味がないではないか。
無責任に受け入れることは拒否して患者が適切な医療機関に送られる機会を阻むものであり、無理なら当然「不能」と答えるべきである。

この患者が助かる可能性について報道していない。
妊婦が脳出血を起こして助かった例がどれほどあるのかについて報道していない。
この年齢の妊婦に起きる可能性が高い疾患は「子癇」なのか、「脳出血」なのか報道していない。確率の高い方向で治療に入るのが当たり前の医療であることを報道していない。

内科医の意見があたかもあっているように報道しているが、もしもこれが本当に子癇出血だったら、CTを取るために動かしただけで死に至ったかもしれない。
そのときは報道は、妊婦の病態について詳しくない内科医の意見を聞いたために死んだ、と報道するのだろうか。

今回の患者を救命できる可能性のある病院を持つ都市は10もないだろう。
どんな病気でも死にたくないのであれば、そのような病院のある都市に住むしかない。
どんな街にも優秀な医療機関を設置する、と言うなら国民の負担は今の100倍になるだろう。

病気とはそういうものなのだ。
何故そう報道できない。
何故検証しようとしない!

自動車しか修理できない工場で、「スペースシャトルを修理しろ」と言われても無理なのだ。

報道の方々よ、何の知識も資格もないあなた方が医師を断罪するのは結構だ。

しかし、それがさらなる医療拒否を生み産科の滅亡を生み、医療機関の患者不信を生み、助けられる患者を助けられなくしているのだ。

この地方に、この時刻に、発生したこの患者が、現在の医療体制で助かる可能性がどれほどあったことかよく検証もせずに報道するあなた方の姿勢は、大都市に住まない何万人もの妊婦を不安にし、治療機会の消滅を促し、妊婦と胎児の命を危険にさらすことをしていることをよく理解して欲しい。

そして、努力した病院を結果的に診断が間違っていたからといって、「刑事犯罪人」にするのは警察、即ち国家である。

「緊急治療が必要な母子について、厚生労働省は来年度中に都道府県単位で総合周産期母子医療センターを指定するよう通知したが、奈良など8県が未整備で、母体の県外搬送が常態化している。」

通知しているのも国家である。しかし、医者がいなければやれと言われても自治体にできるわけがない。通知ではなく、あなた方国家権力が「刑事犯罪人」として告訴しなくて済む優秀な医者を送ってくれ。
それができないで、さらに医療をつぶすような権力の行使は止めてくれ。

今回の件は間違いなくさらなる産科医療の崩壊を招くと思われるが、それ以外に「受け入れしなかった病院の刑事罰を検討する」(正気とは思えない)となると、救急医療自体を取りやめる病院が続出すると思われる。それに対して、報道機関と国家がどのような責任をとるのか。
by SkinDr | 2006-10-19 01:07 | 医療訴訟